パルスオキシメーター開発経緯 その⑤
パルスオキシメーターの原理はどうして生まれたのか
青柳さんは2020年4月18日コロナの流行が目立ち始めた東京で亡くなられた。1936年新潟で生まれ、新潟大学工学部を卒業後島津製作所に入り、その後日本光電に入社して、循環・呼吸器ME装置の開発に携わっていた。小生より5歳ほど年配である。青柳さんとはその後に年に2回ほど手紙をやりとりしていた。一番彼が興奮していたのは『麻酔の偉人たち―麻酔科学誌に刻まれていた人たち―(J.Roger Maltby 編著)(総合医学社発行)』の中にアジアから華岡青洲と自分が選ばれた事を非常に喜んでいた。もし我々のグループとの共同研究がなく、呼吸と循環の論文を通じてSeveringhaus教授との出会いがなかったら、日本光電の当時の社内の態度から日本のパルスオキシメーターの研究は歴史の中に埋もれていただろうと思う。ご冥福を祈る。
旧来、Wood Typeのオキシメーターが臨床に用いられてきた。Wood Typeのオキシメーターでは660nm付近は酸素飽和度の変化によって、ヘモグロビンの光吸収が大きく変化するので酸素飽和度の測定には便利であり、別に基準としてもう一つの波長890nmを用いて2波長で酸素飽和度を計算する方式がとられてきた。Lambert‐Beerの法則を元にこの2波長で酸素飽和度の絶対値を算出するのには血液の量の正確な値が必要であり、この弱点を補う為にWoodは耳朶を圧迫する操作を行い(虚血方式)、この方法で酸素飽和度の値を計算しようとした。
我々はWoodタイプのオキシメーターとパルスオキシメーターの比較実験を行ったが、Woodタイプのオキシメーターでは虚血操作が複雑で基線がずれてしまい、安定した酸素飽和度の測定が困難であった。青柳氏は当初、Woodタイプのオキシメーターの改良に取り組んだが、我々と同じ結論に達し、解決方法がなく、やむなく色素(ICG)を用いた心拍出量の開発の仕事を開始した。色素希釈法の実験ですぐにわかった事は組織透過光が脈動することであった。
図に示す如く、静脈内に色素(ICG)を注入し、耳朶で透過光量の変化を測定し、希釈曲線を描いたところ、805nmの波長の場合、脈波がノイズとして色素曲線の上に重畳した。一方930nmの波長では、脈波だけが記録され、注入色素による影響は認められなかった。両波長の信号を用いる事、すなわち805nmで求めた吸光度を930nmの吸光度で求めた吸光度で割れば、脈動部分を都合よく相殺できることを実験的に示すことが出来た。すなわち図の右の如く、脈波の影響なく色素曲線を得ることが出来た。この事から、耳朶全体を駆血して基線(ゼロ点)を求める事なしに、拍動波の変動自体から連続的に基線が求められる事に気が付いた。その後、ノイズとして脈波成分消去の検討から、脈波成分、すなわち動脈血拍動成分の色素情報を生かすことで連続酸素飽和度の測定の可能性に気が付いた。1972年12月の事である。
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